PICTURE DIARY 2711TU2012


小さな王様のつぶらな瞳は、あふれる涙にぼやけてにじんでいる。可愛いお声をあげてにわか雨のようにお泣きになられた。母なるM女史をはじめとして、星のアトリエへのご来訪をお待ち申し上げ、揃ってお出迎えの笑顔を並べた諸公は困り果てた。座るべき銀色のスパンコールと白い毛皮の長椅子がお気に召さぬのか、はたまた星のアトリエの主をはじめとするお出迎えの面々の姿形が見馴れぬものだからであるのか、見当がつかない。ほんの少しだけお困りのご様子の母君が、泣き顔のお口もとに持参のビスケットなどをおすすめになると「ウェッ!」というお声をあげられ、ゆっくりと3つ数える間ほどの時間泣くのをお止めになられた。ふたたび泣き顔になられたが、しばらくして小さいながらも威厳のある紳士のお顔付きに戻られた。小さな王様は、出迎えの皆をねぎらう挨拶をと喜びの顔を向けたのであるが、皆は挨拶を返すどころか、むしろ無礼な態度を示す様子に呆れ果てたので挨拶を止めたのだ。時を経てふたたびまみえるような時には、誰しも顔をクシャクシャにして大声をあげ、涙を流し再会を喜ぶものであろう。であるのに、誰も彼もが困ったような深刻な問題でもあるような顔をして、まともな挨拶をしようともしないとは。ある者などは口から舌を出して「ベロベロべー」などと言いながらうつけた笑い顔を向ける。道化。面白いから赦すが、面白くなければ追放を命じるところだ。母には伝えおくべきだった。新しい挨拶の作法を。かくして、ご自分の居城へご帰還なさる際にも、小さな王様は大声をあげて顔をクシャクシャにしかめ、ありったけの涙を流してしばしの別れを惜しんだ。

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