HOTSHOT-Mt.FUJI

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海に行く。朝から天気良く富士山がくっきりと見える。小さなテントを張って直射日光を避け自分の世界を確保する。グレープフルーツを割って、スプーンです くったジュースと少しのハチミツを入れた水のボトルで体を潤しながらゆっくりとした時を感じる。小さなテント越しに、目の前の砂浜のステージで、恋人たち や家族連れによる、海の景色と富士山を背景にした舞台上のパントマイムのように、台詞の聞こえない演劇的な日常的な非日常的風景が、これもまたゆっくり と、一見すると何ら劇的な気配もなく、波音に乗せて立ち止まり通り過ぎ、演出家も無しに進行して行くのを見る。一輪の手押し車に、大きなビニールボートを 乗せて、さらにそのボートに男の子、坊ちゃん刈りの船長さん役を乗せて押して歩くお父さん。同じように、荷物運びの四輪のカートに、宇宙船の形をした、あ るいはイルカの、さらには果物のビニール浮き輪を山積みして、全体が現代美術の作品のように見えるオブジェクトを引きながら安住の地を目指す開拓者魂にあ ふれる一行。たくさんの荷物を持って到着するなりキャンプ用の折りたたみテーブルを広げ、折りたたみの椅子を広げ、ポップなビーチタオルを広げ、調理道具 を広げ、こぢんまりしたバーベキューセットでソーセージを焼いたりスープを作ったり、渋谷のカフェの厨房とホールにいそうな若いカップルは、パラソルもさ さずに何時間も料理して笑いが絶えない。ステキな微笑ましい二人。なかなか良い場所が見つからず、もういい加減にして、どこでもいいから、早く、歩きにく いうえに耐え難いまでに焼けた砂歩きから解放されたい、と痛切にお願いしますの演技をするお母さん。お父さんはぜひとも最高の砂地を見つけたいとくるくる 歩き回る。しばらくすると、建て売り住宅のように我が家の隣近所がテントやビーチパラソルで埋まって、ちょっと窮屈になった。日常生活の延長のなかで自分 や太陽や海や風の持つ自然のサイクルを確認して、砂浜のテントの住民は役者であり観客であることを放棄して、しばしうつらうつらする。しかし勿論それでも なお舞台は進行する。太陽の光線によって。富士山は雲をまとって今日の出番はない。 ミック・イタヤ