PICTURE DIARY 2611WE2014
一雨ごとに冬に入って行く。長い付き合いになったステンカラーのコートに、こまかい雨粒が玉になる。まだ煙草を吸っていた頃の焦げ後が、右手のポケットの下方向に一つ、ロンドンでの小さな記憶を残している。レインコートの似合う街、グレースケールの空の下、細く巻いたステッキのような傘で石畳を突きながら闊歩し、傘は決して開かない。勿論、雨の降る日には最初から傘は持たない。打ち合わせを終えて外に出ると、帰宅を急ぐ人波と、これから約束のあるであろう人々の流れがぶつかって、ビルから歩道に漕ぎ出せない程。波しぶきのような透明のビニール傘がくるくる回る、うまく避けながら、ひとけの無い裏道を選んで歩く。少し遠回りでも、自分の思うように動ける方が良い。