PICTURE DIARY 1912WE2012


東山魁夷画伯の名作「緑響く」はモーツァルトのピアノ協奏曲をイメージし表現しているという。森がオーケストラで、白馬は主旋律を奏でるピアノだ。その解説はぼくにとって衝撃的だった。ぼくは音楽と絵やデザインのコントラストや出会いを表現しようとして来たが、そのようなアプローチは昔から、すでに高い次元で具体化されている。カンディンスキーやマチスと言った、音楽を主題にした作品を連作した例はたくさんあるので新しいことではないのだが、意表を突かれた。森や湖と白馬。美しい。東山画伯は奈良を愛したという。日本の心や、魂の中心としての奈良なのであろうかどうか、詳しくはない。ただ「緑響く」は、東山画伯がはっきりとモーツァルトの音楽とオーケストラ、そしてピアノを主題として描いた絵であると言う素直で単純明快な事実に感動した。ぼくが考えていたことは、日本人と言う民族が、アジア大陸の片隅の日本列島という島々に辿り着いた様子を音楽として捉え、端的な絵にしたいということ。ヨーロッパにおいて多民族のヨーロッパ人たちが出会い、戦い、交わりを深めたように、ベートーヴェンやリスト、ショパンやドビュッシーやラベルが線で結ばれて不思議な図形を描くように、古代の日本との相似形が生まれ、見出だされるのではないか。五感はもちろん、第六感を呼び覚ますような表現を理想とする。大洋を黒潮に乗って、あるいは大陸を馬に乗って流れて来たぼくやぼくらは、海や風や波の音を音楽として聴き、砂漠の足跡や焚き火の火や煙を絵と捉える。そこには単純で明快な古代の感覚が遊んでいる。

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