PICTURE DIARY 1810TH2012
昼前の、人気の無い住宅街の交差点の斜め前方に黒と灰色の服を着た女の人が立っている。よく見ると知人である。その女性はクリッと大きな眼を見開いてどこかを見ている風なのだが、視線の先の空間には何も無い。空か、とも思ったがそれにしては視線が低く、遠目から見ても、瞳の焦点は交差点の真ん中の空中あたりにあるので、何か考え事をしているのか、または全く何も考えていないかのどちらかだと思われる。さらに注意して見ると、灰色のスカートから覗く黒のロングブーツの爪先の示す先に、そのリードも黒く、首輪も黒い黒灰色のプードルがじっと佇んで居て、犬も前方をぼんやりと見ている。今にも雨粒が落ちて来そうな白灰色の空とアスファルトグレーの路面、そして背景のコンクリートと石垣の灰色に、彼女の白っぽい顔色や見開かれた黒い瞳が瞬間の絵になって、全ての調子が対比し溶け合ってグレースケールの世界になっている。オレンジ色のレザーブルゾンと履き古しのパッチワークジーンズで自転車に跨がり信号待ちをしている、彼女の位置から見ても斜め前方に居て、多分同じように灰色の世界を背景にしたぼくは、少しは派手なコントラストで目立つ見え方をしているに違いないと思えるのだが、信号が変わって走り出すぼくと自転車には全く気付く様子も無く、思い切り手を振るぼくは手を振りながら、これは気付かれずに擦れ違うのだなと言う可笑しさに笑いながら通り過ぎた。これが今日一番の出来事。すべてがグレーの、何も起きないストーリー。ちょっとした挨拶さえも。